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水島綜合法律事務所 - Q&A

Q&A

Q33夫がTIA?!その5

1、今回のテーマ
 今回も、夫が一過性脳虚血発作(TIA)を起こした後の経過を踏まえて、病院が日々努力されているということについて、患者目線+弁護士目線で感じたことについてお話させていただきます。
2、ステント治療も繰り上げ
 6月19日(金)、再度の緊急入院となりました。週明けの6月22日(月)に再入院の予定であったことから躊躇する夫を説得し、結局、3日繰り上げて入院することになりました。その日は朝から元気がなく、単に機嫌が悪いだけなのか、あれこれ聞いても「フワフワしてあまり歩きたくない」としか答えないため、体調が悪いのかどうかもよくわかりませんでした。ただこのままの状態で週末を自宅で過ごすにはあまりに不安要素が多く、緊急入院できて正直安堵しました。
 予定を繰り上げて入院することにあれだけ躊躇していたにもかかわらず、無事入院できたことで安心したのか、ようやく夫に笑顔が見られるようになりました。
 F先生(脳外科)曰く、フワフワするのは、恐らく盗血症候群の症状だろうということでした。そのため、手術予定も1日早めて、6月22日(月)朝9時から脳外科手術(ステント治療)を受けることになりました。
3、術前説明から同意までの期間の長短だけで説明義務違反の有無は判断できないこと
 緊急入院した日(6月19日(金))の夕方、F先生(脳外科)から、改めて術前説明を受けました。「82%の高度狭窄(もともと直径10mmある血管が1〜2mmしか開存していない)で、狭窄部位が石灰化している可能性があるため、治療しても2〜3mmしか拡張できないかもしれないが、それでも血液の逆流を十分改善できるだろう」とのことでした。
 なんといっても素人ですから、「石灰化」とか、「(1〜2mmが)治療しても2〜3mmしか拡張できないかもしれない」ということを聞くと、途端に不安になりました。狭窄部位が石灰化している場合、治療することでかえって動脈解離が起こるのではないか、動脈解離が起こらないようにするためには、無理に拡げることはできず、結局、治療が奏功しないのではないか、だったら、治療しない方がいいのではないか、とあれこれ、心配なことばかりが頭をよぎりました。患者家族として心配する傍ら、これまで自分が担当した医療事故案件が次々蘇ってきて、混乱するばかりでしたが、とにかくあとは、F先生の「それでも血液の逆流を十分改善できる」との言葉に望みを託すだけでした。
 夫自身はもうある程度の覚悟ができている様子でした。段取りとしては、6月8日(月)に受けた脳血管造影検査とほとんど同じで、場所も同じ血管造影室とのことですから、だいたいどんな感じになるのか予想がついていたからかもしれません。それに、週明けすぐの手術ですから、点滴を入れたり、術後ICUに一泊するための段取りや準備で、そこそこ忙しかったこともあり、あまりゆっくり心配する時間がなくて、かえって良かったのかもしれません。
 医療裁判では、必ずと言っていいほど説明義務違反が問題となります。特に医療は専門性が高く、医療行為それ自体のミス(医療過誤)を主張立証することは困難を極めますが、説明義務違反、つまり、そのようなリスクがあることを聞いていれば治療は受けなかったということを主張立証することは医療の専門知識のない弁護士にも比較的容易だからです。ただ、そうはいうものの、説明義務違反ということは、要は、言った言わないの世界ですから、そのこと自体を立証するのは決してたやすいことではありません、そのためか、よく患者側から、「説明を受けて1週間で手術を受けたので、手術を受けるか否かを考えるための十分な時間がなかった。最低2週間は必要だ。」などという主張がなされます。しかしながら、実際、患者目線になっても、そのような主張は全くと言っていいほど無意味な主張だと痛感します。実際のところ、手術を受けるか否かについて1週間余分に考える時間があったところで、何も変わらないからです。むしろ、考える時間が多ければ多いほど、心配の種が増えるだけです。大切なのは、考える時間の長さではなく、医師と患者とが信頼関係を築き、素人が判断できる限りにおいて、メリットとデメリットについて、どれだけ分かりやすい内容の説明を受けることができるかに尽きます。患者側が説明を受けてから同意するまでの期間の短さを主張するのは、そのような外形的なことでしか、説明義務違反を主張できないからだと思います。いずれにしても説明の内容そのものではなく、期間の長短だけを主張するのは、無意味な議論です」(残念ながら、医療裁判の中でそのような議論がなされているのが現実です)。
 そういった観点から考えると、F先生からは、まさに的確かつ端的に、手術を受けるか否かについて必要十分な情報を与えてもらえたと思います。ステント治療についての豊富な知識・経験と技量を持っておられることからくる揺るぎのない自信のなせる業だと思った次第です。
 夫が手術の同意書に署名したのは、緊急入院して説明を受けたその日(6月19日(金))の夜でした。1週間どころか、その日のうちに同意書に署名したからといって、決して説明義務違反にはならないことを身をもって経験した次第です。

(月刊誌『クリニックマガジン』連載『日常診療におけるトラブルの予防・解決〜医療者側弁護士による法律相談室〜』シリーズ第33回 掲載記事より(令和2年12月号・第47巻第12号 通巻618号・令和2年12月1日発行 編集・発行 株式会社クリニックマガジン))

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